研究概要 |
本年度は以下の2テーマについて重点的に研究をおこなった。 1.地球外惑星物質表面で生じる宇宙線照射の履歴を定量的に評価するために,月試料および隕石試料のSmおよびGd同位体比測定を行い,^<149>Smおよび^<157>Gdの中性子捕獲反応に基づく^<150>Sm/^<149>Sm,^<158>Gd/^<157>Gd同位体変動を0.005%以下の精度で検出することを可能とした。これによって, (1)アポロ計画によって持ち帰られた約3m長の2つのコア試料A-16,A-17からそれぞれ採取された表面からの深さ位置の異なる6種,9種の試料のSm, Gd同位体変動から,月表土の形成過程をについて考察した。A-16,A-17試料採取サイトともに2つのスラブが不完全に混合しあって形成したものと考えられる。 (2)その一部に角礫化した組織を持つ12種類のエンスタタイトエコンドライト(オーブライト)隕石の宇宙線照射履歴から,月以外の惑星物質としては初めて,惑星形成初期のレゴリス過程の存在を同位体科学的見地から明らかにすることができた。 (3)12種の火星起源隕石について,希ガス同位体から求められる宇宙線照射年代とSm, Gd同位体変動から求められる宇宙線照射履歴には必ずしも相関が認められないことを見いだした。特に,その非相関性が顕著に認められる玄武岩質火星隕石は,火星表面近傍に位置していた期間に長時間にわたって宇宙線の照射を受けたためと推測される。 2.惑星の初期分化過程を年代学的に議論するために^<135>s-^<135>Ba壊変系を用いた新しい年代測定法に着手した。 7種の炭素質コンドライト隕石について酸による連続溶出実験を行い,得られた各フラクションについてBa同位体を測定した。炭素質コンドライト隕石のBa同位体変動の主な要因は先太陽系物質(プレソーラー粒子)の影響によるr-過程同位体の欠損・過剰によるものであることがわかった。
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