本課題は、固体表面で進行する表面反応の機構を理解するアプローチとして、顕微鏡的手法によって得られる表面種の空間分布と放射光X線分光によって得られる反応キネティクスおよびそれらをつなぐシミュレーションを組み合わせる方法を開拓し、実際の表面反応のメカニズムの研究に応用することを目的としている。このようなアプローチに基づいて表面反応の機構解明に取り組んだ結果、以下に例を挙げる幾つかの重要な表面過程のミクロメカニズムを明らかにすることができ、このアプローチの有用性を確認することができた。 1.自動車排ガス触媒のモデル反応であるPt(111)表面上のCO酸化反応において、表面酸素が凝集して二次元的な島を形成すると反応速度が著しく低下する。この原因は、二次元的な酸素の島の中に吸着したCOが他の近接COによって遷移状態の大きな不安定化を受けるためであることが分かった。 2.自動車排ガス触媒のモデル反応であるRh(111)表面上のNO還元反応において、気相からやってくるNO分子がダイマーを形成し、表面窒素と反応するパスを見出した。NOダイマーがN-N結合を表面に向けた配向で表面窒素を攻撃することが反応の鍵になっていることを明らかにした。 3.Pt燃料電池触媒の上で重要な役割を果たしていると考えられる表面でのプロトン移動について、Pt(111)上のH_2O+OH共吸着相を用いて調べた。その結果、H_2Oから隣のOHにプロトン移動する過程だけでなく、H_2Oから隣のH_2Oにプロトンが移動してH_3O^+を形成してからさらに隣のOHに移動する過程も重要であることを見出し、それらの時間スケールも初めて見積もることができた。
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