研究概要 |
これまでの研究成果を受け,本年度は主に以下の三点について研究を進めた. 1.集光機能型ナノ分子の開発:人工光合成分子素子や高効率光電変換分子素子の開発を目指すには,集光機能部位の導入が不可欠であり,そのような集光部位として高溶解性フタロシアニン化合物の合成を検討した.具体的にはフタロシアニンのベンゼン環の代わりにチオフェン部位をc縮環し,そのα位を選択的にアルキル化したチオフェン縮環ポルフィラジンの合成に初めて成功し,また各種の溶液物性の検討に加え,単結晶X線構造解析も行うことが出来た.この分子はチオフェンの縮環部の向きにより幾つかの構造異性体が考えられるが,構造解析の結果,確かにチオフェン部には乱れは認められるものの,アルキル基部分の乱れが抑えられていることが明らかとなった.さらに,薄膜での物性調査のため,溶液法により試作した有機FET素子において,銅-フタロシアニン蒸着膜を超える電界効果移動度が認められたことから,固体物性やデバイス特性に関して構造の乱れは大きな影響を及ぼさないことが確認できた. 2.ナノ共役分子の自己組織化による機能化(ナノ分子の増感色素への応用):ナノ分子の機能化の一つ色素増感太陽電池への応用を試みた.具体的には種々の鎖長(4,8,12量体)のオリゴチオフェンにカルボン酸をアンカーとして導入し,二酸化チタン上へ吸着させてセルを作製し,特性を評価した.その結果,4から8量体では,オリゴチオフェン鎖の伸長に伴い効率は向上するものの(最高で1.5%@AM1.5程度の光電変換効率を達成),12量体とするとオリゴチオフェン部の酸化電位が下がりすぎるため効率の低下がおこった.一方,カルボン酸の代わりにシアノプロペン酸を導入した系では,4,8,12量体としても効率が低下せず,12量体において最高で光電変換効率3.5%@AMに達した.色素の溶液物性の詳細な検討から,基底状態における双生イオン構造の寄与が考えられ,これが光励起により生じた電荷分離状態の安定化をもたらし,逆電子移動を防ぐことで色素部の酸化電位の影響を最小限にどどめたものと考えている. 3.機能集積型ナノ分子の合成と評価:異なる機能を分子内に全て導入した機能集積型ナノ分子のプロトタイプとして,正孔輸送型分子ワイヤー,他端に電子輸送型分子ワイヤー,それらの間に発光部位を導入したオール-イン-ワン型の単一成分電界発光分子を合成した.期待通り,溶液法により製膜した薄膜を二種の電極でサンドイッチした単層型素子で比較的高い発光が認められ,機能集積型ナノ分子として挙動することを明らかにした.
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