本研究においては、高周期15族元素化合物を有機合成および高分子合成における炭素ラジカル前駆体として用いる可能性について検討を行っている。昨年度までの研究において、15族元素化合物である有機アンチモン化合物が、従来用いられてきた16族や17族ヘテロ元素化合物よりも優れた炭素ラジカル前駆体であることを、リビングラジカル重合の開発などを通じて明らかにしてきた。本年度は、有機アンチモン化合物を用いたリビングラジカル重合法の合成的な利用を進めると共に、あらたに有機ビスマス化合物を用いたラジカル反応の開発について検討を行った。その結果、有機アンチモン化合物を用いることで、これまで重合制御が報告されていない、N-ビニルピロリドンの重合制御が極めて高いレベルで行えることを明らかにした。さらに、"活きている"重合末端を利用することで、ポリ(N-ビニルピロリドン)をひとつのブロックとして持つブロック共重合体の合成制御にも成功した。また、有機ビスマス化合物が優れた炭素ラジカル前駆体であり、穏和な過熱条件下で効率的に炭素ラジカルを生成することを初めて明らかにした。さらに、有機ビスマス化合物を用いることで、リビングラジカル重合が極めて高い重合制御を伴って進行することを明らかにした。有機ビスマス化合物の反応性を動力学的な手法を用いて調べたところ、これまで調べられたヘテロ元素化合物の中で、最もラジカルに対する反応性に富んでいることを明らかにした。
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