研究概要 |
有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子は、超薄型フラットパネルディスプレイや照明への応用が期待されている。本研究では、固体NMR法により有機EL材料の構造を明らかにし、有機非晶質材料の基礎科学を確立するとともに、材料およびデバイス諸機能の科学的基本原理の解明を目指した。 今回、正孔輸送材料であるN,N'-diphenyl-N,N'-di(m-tolyl)benzidine(TPD)に対しビフェニレン中央部の四級炭素を^<13>Cラベルした非晶TPD(^<13>CBIQ-TPD)およびフェニル基の四級炭素を^<13>Cラベルした非晶TPD(^<13>CPQ-TPD)を合成した。これらの試料に対し、スーパーサイクルR26_4^<11>パルス系列を利用した固体NMR測定法によりラベル^<13>C-^<13>C核間の距離を測定した。その結果、非晶^<13>CBIQ-TPD試料の分子間^<13>C-^<13>C距離は5.3±0.2Å、非晶^<13>CPQ-TPD試料では5.0±0.2Åであることが決定され、初めて実験的にホッピング距離を明らかにすることができた。特に、今回の測定により、中心部より末端部で分子間距離がより短くなっていることが明らかとなった。 また、有機EL素子において広く用いられているtris(8-hydroxyquinoline)aluminum(III)(Alq_3)の発光特性と分子構造との相関について検討した。黄緑色の発光をするα型、非晶Alq_3および青色発光をするγ型、δ型Alq_3に対して^<27>Al NMR測定を行った結果、α-,非晶Alq_3はmeridional体、γ-,δ-Alq_3はより構造対称性の高いfacial体であることが明らかとなった。CP/MAS ^<13>C NMR測定によっても上記の結論を確証する結果が得られたが、δ型結晶に対し共鳴線の分裂が観測された。この分裂の原因が現状では明確ではなく、分子間相互作用によるものである場合、発光波長の変化が分子間相互作用によるものである可能性を完全には捨て切れない。現在、^<15>N核をラベルしたAlq_3を合成し、その二次元二量子固体(2D DOQSY) ^<15>N NMR測定により純粋に分子内の幾何異性体状態について検討を行っている。
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