研究概要 |
有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子さらなる特性向上の設計指針を得ることを目指して、本年度は、下記の項目について検討した。 1)有機ELにおける有機薄膜の分子配向状態は、そのEL特性に大きく影響すると考えられる。しかし、それら有機薄膜は非晶状態にあるため、その配向状態を明確にすることが困難であった。今回、正孔輸送材料であるTPDを重水素化し、その真空蒸着膜に対して^2H NMR測定を行うことにより配向状態の解析を試みた。有機ELでは100nm程度の薄膜を用いるため、解析に十分なS/Nを得ることが最初の課題であったが、真空蒸着膜を100枚以上作製し、それらを積み重ねた試料を作製することにより、3日間の測定で十分なS/Nを得ることに成功した。また、測定結果から、TPDは薄膜中でほぼランダムな配向であることが明らかとなった。したがって、これまで解析してきたバルク非晶状態での構造が、薄膜での構造を十分反映していることが予想された。 2)前年度、有機EL素子において広く用いられているAlq_3の発光特性と分子構造との相関について検討を行ったが、δ型結晶に関しては必ずしも確定的な結果が得られていなかった。また、α型結晶に関しては、これまでmeridional体であると結論されていた一方で、最近、米国Kodak社からfacial体であるとの報告が出された。したがって、α型結晶に関しても異性体状態を明確にする必要がある。そこで、^<15>N核をラベルしたAlq_3を合成し、その二次元二量子固体(2D DOQSY)^<15>N NMR測定により幾何異性体状態について検討を行った。その結果、黄緑色の発光をするα-,非晶Alq_3はmeridional体、青色発光のγ-,δ-Alq_3はfacial体であり、発光波長が異性体状態により決まるという、明確な実験的証拠を得ることができた。
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