研究概要 |
機械要素の微小化に伴い,また精確な動作制御の必要性から,厚さ数ナノメータの薄い潤滑膜が求められるようになってきた。しかし,潤滑膜には固体の耐久性を高める役割を果たす固定分子層,および固体間の摩擦を低減させる役割を果たす流動分子層のいずれも重要であり,これらを望ましい組合せで塗布しなくてはならない。本研究では,潤滑剤固定に最適な表面改質方法を開発し,さらに連続して固定分子層および流動分子層の最適塗布方法を開発することを目的とする。固体薄膜と潤滑分子との強い結合性を達成することで理想的潤滑システムを開発するためには,固体薄膜の硬度,組成の制御が不可欠である本年度はシリコン,窒素,水素をそれぞれ添加したダイヤモンドライクカーボン膜を作成し,その摩擦特性,潤滑剤分子との吸着特性を調べた。ダイヤモンドライクカーボン膜中にシリコンを添加することで摩擦係数を0.04まで低下させることができた。また,窒素添加,水素添加ダイヤモンドライクカーボン膜とコンピュータハードディスクの潤滑剤として用いられるパーフルオロポリーエテル分子との吸着特性を,開発した真空蒸着装置を用いて調べた。水素を添加することで,ダイヤモンドライクカーボン膜上の吸着サイトがターミネートされることで,潤滑剤との吸着性は改善されなかった。しかし,ダイヤモンドライクカーボン膜中に窒素を添加することで,カーボン膜の表面に有機分子との吸着に有利なアミングループが形成されることで,潤滑剤分子の吸着性は大幅に改善されることが新たにわかった。また,分子動力学法を用いたシミュレーションでは,より精度の高いシミュウレーションを目指して,Brener報によるポテンシャル作成を行ってきた。本年度はさらにダイヤモンドライクカーボン膜中のsp2/sp3結合の割合を予測できるポテンシャルを作成した。
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