本年度はInAs量子カスケードレーザの高性能化として閾値電流密度の低減と動作温度の向上に着目して、以下の2点について研究を行った。 (1)注入層におけるドーピング濃度の最適化 量子カスケードレーザの注入層におけるドーピング濃度の最適値は材料によって異なることが知られているが、InAs系ではこれまで報告されていない。注入層のドーピング濃度が異なる複数の試料を作製し発振特性を調べたところ、ドーピング濃度が低い試料では低温における閾値電流密度が低くなり、又ドーピング濃度が高い試料では最高動作温度が高くなることがわかった。注入層のドーピング濃度が5x10^<17>cm^<-3>、発振波長12.6μmのInAs/AlGaSb超格子カスケードレーザで観測された室温の閾値電流密度は4.0kA/cm^2であり、これまでInAs系で報告されている室温電流密度の中で最も低い値を実現した。 (2)結合量子井戸を用いた発光層の検討 発光層として結合量子井戸を用いた構造に注目し、構造と光利得係数、動作温度との関係について調べた。結合量子井戸は発光層構造の基本となる構造で、これを検討することで井戸間の結合の強さなど他の発光層でも重要となるパラメータを抽出することができる。結合量子井戸の片側の井戸の厚さを変え光利得係数を求めたところ、計算結果と定性的に一致し、結合反結合エネルギの差がInAs縦光学フォノンのエネルギにほぼ一致したときに光利得係数が最大になることがわかった。光利得係数が最大となる構造で観測された最高動作温度は52℃とこれまでInAs系で報告されている最高動作温度よりも高い温度を実現した。
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