半導体一次元構造を用いた高速デバイスの実現を目標に、新しいデバイス原理の確立の研究を進めるとともに、これらに必要な低次元構造の選択エピタキシャル成長およびエッチングによる製作技術の研究を進めてきた。これまでにGaAs系材料を用いたきわめて構造精度の高い二次元量子ドット格子、一次元量子細線等を実現し、これらの構造における電子輸送現象の研究を進めてきた。今期は最終年度であるため、これらの低次元構造について幾つかの検証研究を進めた。選択エピタキシャル成長で製作した量子ドット/細線ネットワーク構造に関しては結晶性を確認するとともに、デバイス構造の検討に入った。また今期は反応性イオンエッチング(RIE)の最適化を最重点課題として進め、lnGaAs/AllnGaP二次元電子構造ウエハ上に40nm幅の垂直側壁を有するトレンチ構造の実現に成功した。これを用いてチャネル幅80nm、チャネル長50nmの一次元細線を製作し、その電子伝導特性を調べたところ、10Kから室温までの広い温度範囲で負性抵抗が確認された。この現象は、電子がチャネルを通過する際、弾道輸送状態によって効果的に加速され、空間または実空間における低い電子移動度のチャネルに遷移するために生じたものと考えられる。具体的にはk空間ではlnGaAsのガンマ点からX点へ、実空間ではlnGaAsチャネルからAllnGaP障壁層への遷移である。動作電圧は小さなチャネル長を反映して1V以下であり、低消費電力化と微細化に大きく貢献することになった。構造の最適化によって将来有望なデバイスに成長するものと期待できる。もうひとつの進展は上記トレンチ構造を用いたダブルゲートトランジスターの実現である。チャネルの弾道輸送現象を反映して、低ソース/ドレイン電圧領域で高いチャネルコンダクタンスを持つトランジスターの実現に成功した。
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