研究概要 |
本研究では平成17年度に超音波ディジタル計測装置に独自の機能を付加し,(1)独自の手法を拡張して,心筋の拡張特性(粘弾性特性)の断層像の非侵襲的描出方法の検討,及び(2)必要なソフトウェアを超音波ディジタル計測装置に組込み,独自の計測システムの構築を計画通り遂行した.その中で,当初は本手法で得られるヒト心筋の粘弾性値が時間的に減少するのは,大動脈弁閉鎖時の内圧の急激な低下が原因と考え,動物実験を予定していたが,平成17年度の研究で,内圧が一定でも,本手法で得られる心筋の「見かけ上の」粘弾性値が時間的に減少していることが明らかになったため,動物実験の替わりにファントム実験と理論的検討を行ない,同時に,患者への適用も試みた. 1 心臓のファントムによる独自の粘弾性計測方法とシステムの評価 (1)心臓のファントムとして,弾性球殻をシリコーンゴムによって作製し,加振器によってパルス状振動を伝搬させた.(2)壁内に設定した数百点でパルス状速度波形の空間分布を同時計測した.(3)パルス状振動の伝搬速度の分散特性を算出した.(4)ラム波の伝搬速度の理論式を(3)の計測値に整合し,粘弾性率を算出した.さらに,機械的試験によって得られたシリコーンの粘弾性値との比較を行って,10%以内の誤差で推定できることを確認した.(5)生体内での波動伝搬に関わる調査検討により,計測している横波が病態を顕著に表す可能性が高いことを見出した. 2 病完に搬入可能な超音波計測システムの構築とヒトへの適用 (1)病院に搬入できる簡易型システムを構築し,(2)健常者数名に関して計測を行い,計測から得られた粘弾性値が健常な被験者間の差が20%程度であることを確認した.(3)心臓疾患患者10名への適用(陳旧性心筋梗塞の患者)したところ,病変部位における伝搬速度に健常者とは差異があることを見出した.これは臨床診断の可能性を示す貴重な結果である.
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