研究概要 |
本研究では,独自の計測法によって発見した「大動脈弁が閉鎖するタイミングに,自発的に発生したパルス状振動が心筋を伝搬する生理学的な現象」をさらに詳細に計測し,振動モード・伝搬速度の内圧依存性・周波数分散性・1拍の中での他のタイミングにおけるパルス状振動の有無,などの現象を明らかにし,100Hzまでの成分を有するパルス状振動の伝搬現象を解明し,心臓生理学,循環器病学等の分野に貢献することを目的としている.その中で,本年度は,以下の研究成果が得られている. 1. ヒト健常者・心臓疾患患者へ適用 (1)前年度までに構築した計測システムを用いて,まず健常者5名に関し,大動脈弁が閉鎖するタイミングに自発的に発生したパルス状振動の計測を行い,心筋を伝搬する伝搬速度の算出を行い,再現性・精度などを評価した.その結果,同一被験者の拍間に十分な再現性のあることが確認された. (2)計測から得られた粘弾性値の時間的遷移の被験者間での比較を行った.その結果,5名の被験者に関して,ほぼ同一の時間的遷移のあることが確認された.また,文献値には動物の心筋に関するものしかなかったが,イヌの心筋に関して計測された弾性値,粘性値とほぼ同一の値が本実験で得られている. (3)次に心臓疾患患者(心筋梗塞)へ適用したところ,患部でパルス状振動の振幅が減少し,伝搬速度も減少していた.患部において減衰が増加すること,伝搬速度が減少することは,別途縦波を用いた超音波顕微鏡による結果とも一致しており,横波による組織同定の重要性が裏付けられた. 2. 本研究の総括 本研究者によって発見された,パルス状振動が心臓壁内を伝搬する現象に関して,健常者と患者における計測を行い,心臓生理学との対応をとった.さらに,臨床の現場で充分利用可能なシステムを構築できることを見出した.
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