実船構造で一般に必要となる溶接部の疲労き裂伝播寿命を高精度で推定するために、溶接残留応力の影響を数値シミュレーションに基づき算定し、その結果を伝播シミュレーションに適用して溶接施工の疲労き裂伝播形態および伝播寿命に及ぼす影響を解明した。また、各種狭帯域ランダム荷重の集合体としての長期波浪荷重分布に基づく荷重履歴の影響を正確に疲労き裂伝播に反映させる伝播寿命推定法を開発し、コンテナ船の試解析に適用しその有用性を実証した。 前述のようなシミュレーションに基づく疲労き裂生涯管理概念を実証するため骨材のフェイスからウェブを交差して伝播する疲労き裂(複数のき裂先端を有する)のランダム荷重下の構造模型疲労試験、溶接継手近傍における疲労き裂伝播試験、およびCT試験片による母材の各種ランダム荷重下の疲労き裂伝播試験を実施し、本シミュレーションにより得られる疲労き裂伝播寿命の妥当性を実証した。 腐食平板の延性破断特性の解明に関しては、各種の腐食条件下の船体用鋼板について腐食面の統計的性質を(財)日本海事協会の調査に基づいて調査し、腐食ピットの分布を各種系統的に変化させた腐食表面を数値的に生成し、その引張試験を小型平板試験片を用いて行い、腐食鋼板の強度および延性低下に対する腐食ピットの分布の影響を巨視的延性低下と塑性変形領域の局所化の観点から実験的に解明するとともに、このような現象を大変形、大ひずみ有限要素解析により数値シミュレーションで予測する手法を確立した。このような現象理解に基づき、腐食環境下の構造物の強度低下と変形能およびエネルギー吸収量の低下の関係を解明する手掛かりを得た。
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