研究課題/領域番号 |
17207003
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
東 正剛 北海道大学, 大学院地球環境科学研究院, 教授 (90133777)
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研究分担者 |
高田 壮則 北海道大学, 大学院・地球環境科学研究院, 教授 (80206755)
三浦 徹 北海道大学, 大学院・地球環境科学研究院, 助教授 (00332594)
久保 拓弥 北海道大学, 大学院・地球環境科学研究院, 助手 (80344498)
長谷川 英祐 北海道大学, 農学部, 助教授 (40301874)
伊藤 文紀 香川大学, 農学部, 教授 (50260683)
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キーワード | 融合コロニー / 体表炭化水素 / 個体判別 / エゾアカヤマアリ / 触覚感覚子 |
研究概要 |
アリの触角に分布する特定の感覚子が異巣アリ個体の体表面を覆う炭化水素(CHCs)に触れると、感覚子内の受容細胞が活動電位を発生する。この活動電位は、神経信号として感覚子の受容細胞を通って触角葉に伝達され、高次脳へと送られる。高次脳を経て電気信号が運動神経に伝わると、アリの行動(攻撃、無視、その他)となって現れる。本年度は幾つかの異なる巣を包括して大きな融合コロニーを形成するエゾアカヤマアリの感覚子を用いて、同巣、異巣個体のCHCsに対する感覚子の応答を調べ、これまで研究されている単巣性のクロオオアリと比較した。CHCsは水に難溶なので、溶媒として穏やかな界面活性剤であるTritonX100を0.1%の濃度で10mMNaClに混合し、同巣もしくは異巣の個体の体表CHCsを一定濃度(0.08ant等量/100ul)で溶かして感覚子に与えると、活動電位の発生が確認された。主な知見は以下の通りである。 1)単巣性のクロオオアリでは異巣個体に対する攻撃性が顕著であり、感覚子の反応は、同巣個体に対しては低く、異巣個体に対しては高いという明瞭な違いが見られた。これに対して、融合コロニーを形成するエゾアカヤマアリでは、この感覚子の応答による同巣-異巣個体の判別が曖昧であり、時には、同巣個体に対して反応を示し、異巣個体に対して反応を示さない感覚子さえ存在した。 2)攻撃行動の野外における観察結果(観察巣個体に噛まれた他巣アリ個体数/全他巣アリ個体数)と感覚子の反応割合(活動電位を生じた感覚子数/CHCs溶液を接触させた感覚子数)を比較したところ、エゾアカヤマアリではある程度まで感覚子が応答しても攻撃行動へと移らない事が示唆された。 3)活動電位の振幅や頻度でかなりのバラツキが見られた。これは、感覚子内に存在する受容細胞の多様性が原因と考えられる。未だ各受容細胞の機能は解明されておらず、複数の細胞の活動電位を電気パルスとして表すため、同じアリ個体でも感覚子によって反応が異なるのかもしれない。 4)感覚子による反応程度と攻撃に移るまでの関係では、攻撃行動を起す興味深い閾値があるように思われる。今後、触角葉から高次脳を経て運動神経に至るプロセスと感覚子の応答程度の関係を明らかにする上で、この閾値が重要になると思われる。
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