研究概要 |
本研究は、植物の葉の形態形成の際に、細胞伸長と細胞伸長とがどのように調和・統合されることで、一つのまとまりのある器官を形作るのかを、解明することを目的としている。とりわけ、葉における細胞増殖の欠損が、細胞伸長を促進する「補償作用」に着目した研究を行っている。本年度は、補償作用が引き起こされる発生過程の詳細な観察と、葉の細胞増殖・細胞伸長に異常を示す突然変異株の原因遺伝子を数種同定した。 補償作用を示す多数の突然変異株について、その葉の発生過程を解析したところ、補償作用(細胞の大型化)は、増殖能を失い分化を始めた細胞で誘導されることが明らかになった。このことは、補償作用の仕組みを説明する一つの仮説としてしばしば議論される、細胞周期と細胞の成長の脱共役(細胞周期の進行が阻害されても、細胞の成長が継続するため、結果として細胞が大型化する)を明確に否定するものである。さらに、補償作用誘導時には、細胞伸長速度あるいは細胞伸長期間のいずれかが促進されることが分かり、様々な突然変異株で観察される補償作用は単一の機構によって引き起こされている訳ではないことが示唆された。同様の結論が、補償作用を抑制する細胞伸長欠損変異株extra-small sisters (xs)の解析からも得られた。 fugu2変異株は細胞伸長速度を促進するタイプの補償作用を示す。fugu2はクロマチンアッセンブリーファクターのサブユニットをコードするFAS1に変異を持つことが明らかになった。このことは、DNA複製に伴うクロマチン複製の異常に由来する細胞増職能の低下が、補償作用を引き起こす原因の一つである可能性を示唆している。 一方、fugu2とは逆に細胞数が増加し、細胞サイズが低下する#2058,#2025および#2017変異株の詳細な形態的解析を行ったところ、葉位に応じて葉の形態が変化するヘテロブラスティーが異常になっていることが明らかになった。これらの変異株では、幼若葉であっても、よりステージの進んだ葉の性質を示すことから、ヘテロブラスティーが早まっていることが示唆される。事実、マップベースド法により原因遺伝子を同定したところ、#2025はpaused、#2058はsquintのアレルであること明らかになった。そこで、野生株においても、ヘテロブラスティーの進行に伴い、葉の細胞数と細胞サイズの変化が生じるかを調べたところ、より高い節につく葉ほど細胞数が多く細胞サイズが小さくなることが明らかになった。ヘテロブラスティーが細胞伸長を抑制的に制御することは従来知られておらず、このプロセスの新しい側面が示された。
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