研究概要 |
コイ目魚類は世界の淡水魚の中で最も多様性の高い分類群であり,6科350属に分類される約3500種を含む.本研究の第一の目的は,この莫大な多様性をもつコイ目魚類の大系統を,ミトコンドリアゲノム全長配列(約16,500塩基対)の比較分析によって網羅的かつ迅速に解明することである.また,並行して解明される他魚種の系統進化とあわせて,魚類の分子系統進化学的研究において国際的イニシアチブを確立することを第二の目的とした.第一の目的は,Saitoh et al.(2006)を国際誌Journal of Molecular Evolutionに出版することによってその第一段階が達成された.本論文は,コイ目魚類53種のミトゲノム全長配列を分析することにより世界に先駆けて本目魚類の高次系統関係を明らかにしただけでなく,わずか3年間で45件もの被引用数を誇るこの分野の中心的存在となった.また,本研究期間中に400種を超えるコイ目魚類のミトゲノム全長配列を決定することができ,現在その比較分析を行っている.第二の目的(国際的イニシアチブの確立)については,ミトゲノム全長配列の比較分析に基づく一連の研究の被引用件数が2,000件を超えたことからも,十分に達成されたことが明らかであろう.さらには「深海魚の三つの科が一つに」(Johnson et al.2009),「メダカの分岐年代」(Setiamarga et al.2009),「深海起源のウナギ」(Inoue et al.2010)など,最近マスメディアで話題になった一連の研究がいずれも本研究グループから出されたことからも,一般社会への還元も積極的かつ十分に行われたといえよう.
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