研究概要 |
真核生物鞭毛・繊毛の軸糸は9本の周辺微小管が2本の微小管を囲んだ円筒状構造もち,内部構造は96nmの周期で繰り返す.本研究はそのような規則構造の形成機構を解明するために,軸糸を形成する基本蛋白質群を同定し,試験管内でその構造の一部を再現することを目的とする.本年度は,軸糸微小管内の安定なリボン構造を構成する蛋白質Rib72を可溶性蛋白質として発現し、オーバーレイ法によって相互作用する蛋白質を検索した。その結果、マウス鞭毛で軸糸蛋白質として知られるPacrgのホモログと新規蛋白質(EF39と命名)の2種がRib72結合蛋白質として同定された。免疫電子顕微鏡法および選択的溶出実験により、それぞれ周辺微小管のチューブ内に存在しており、周辺微小管同士の結合に関与していることを示唆する結果を得た。さらに、周辺微小管の結合に関与する他の蛋白質を同定する目的で、軸糸を段階的に解体した際に微小管間結合の切断と同時に失われる蛋白質群を探索したところ、分子量120kと187kの新規蛋白質2種が同定された。それぞれについて、アミノ酸配列決定、cDNAクローン化、配列決定を行った結果、いずれも新規蛋白質であることが確認された。また、組み換え蛋白質を得て抗体を作製し、間接蛍光免疫顕微鏡法で局在を調べたところ、120k蛋白質は軸糸全長(11μm程度)のうち、根本付近1μm程度を除いた部分に局在し、逆に187k蛋白質は根本の0.5μmの小部分にのみ局在することが判明した。それらの電子顕微鏡レベルの軸糸内局在はまだ検討中であるが、これらの結果は、鞭毛軸糸の根本付近とそれ以外の部分で、これまで認識されていなかった大きな構造的差異があることを示唆している。軸糸の構造形成と運動機構の理解にとって、重要な発見である可能性がある。
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