研究概要 |
真核生物鞭毛・繊毛の軸糸は9本の周辺微小管が2本の微小管を囲んだ円筒状構造もち,内部構造は96nmの周期で繰り返す.本研究はそのような規則構造の形成機構を解明することを目的とする.昨年度までに,軸糸微小管の縦の周期性を決定している要素の候補として,複数種のタンパク質を同定した.今年度はそれらの存在状態の解析とともに,新たに軸糸の9本対称性形成機構に迫るために,鞭毛基部体(基底小体)形成に本質的なタンパク質の探索と解析を行った.基部体は動物細胞一般に見られる中心子に相同な細胞器官で,9本の三連微小管が円筒状に配置した構造をもつが,その構築機構は全くわかっていない.我々は,2つのクラミドモナス突然変異体の解析により,カートホイールという構造が対称性の確立に働くことを初めて明らかにした.カートホイールは中心子内腔にある構造で,ハブと9本のスポークから構成される.中心子を完全に欠失する突然変異株bld10の変異遺伝子産物(Bld10p)はこのカートホイールに局在する.分子長を短くしたBld10pを発現させると,スポークが短くなって,微小管8本からなる中心子が高頻度で形成された.また,もう一つの突然変異株bld12は,カートホイールの中央部分を欠失するために中心子微小管の本数が一定せず,8本から11本まで変動することがわかった.これら2つの解析結果は,カートホイールが中心子微小管形成の足場となっており,この構造が正しく構築されることが中心子9回対称性の確立に必須であることを示している.カートホイールは多くの生物の中心子にみられる構造であり,またBld10pもBLD12遺伝子産物のSAS-6も真核生物に広く保存されたタンパク質であることから,この機構は普遍的なものと考えられる.
|