研究概要 |
鞭毛・繊毛の軸糸は9本の周辺微小管が2本の微小管を囲んだ円筒状構造もち、内部構造は96mの周期で繰り返す。本研究はそのような規則構造の形成機構を解明することを目的とする。昨年度までに,軸糸微小管の縦の周期性を決定している要素の候補として、PACRG,Tektin,Rib72などのタンパク質を同定するとともに、鞭毛軸糸基部体の9回対称構造の形成に重要なカートホイール構造を構成する蛋白質Bld10pとSAS-6を同定した。今年度はそれらのうち、PACRGに注目して研究を行った。この蛋白質は以前トリパノゾーマを使った研究において、微小管間の架橋構造ネキシンリンクを形成すると報告されていたことがあり、軸糸構造の決定に重要であると考えられたからである。まず、鞭毛運動が異常になった変異株を検索した結果、鞭毛打の振幅が異常に大きくなっているpf12変異株がPACRGの変異を持つことが明らかになった。さらに、pf12の軸糸では、塩抽出によって蛋白質p20が容易に抽出されるようになることがわかり,PACRGがp20と何らかの分子複合体を形成していることが示唆された。興味深いことに、このp20を欠損した変異株が単離され、その変異株も鞭毛打振幅が異常になっていることが判明した。すなわち、PACRG-p20は、鞭毛内の微小管の往復滑り運動の滑り量を規定する機能を持つ蛋白質複合体である可能性がある。そのような機能は従来ネキシンリンクに想定されていたものである。また、化学架橋実験により、PACRGと相互作用する2種の新規蛋白質が発見された。すなわち、今年度の研究により、微小管間を架橋する蛋白質複合体の構成に関する大きな手がかりが得られたと考えられる。
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