大腸菌SgrS RNAはHfqと結合して代謝ストレス応答を担うsmallアンチセンスRNAである。SgrSRNAはHfqを介してRnase Eとリボヌクレオタンパク複合体を形成し、標的であるグルコーストランスポーター遺伝子ptsGを転写後段階で発現抑制する。これまでの解析により、SgrSとHfqがptsGmRNAの翻訳阻害に必要な最少の要素であることが明らかになったが、塩基対形成そのものが翻訳阻害に重要であるのか、それとも塩基対形成によってptsGmRNAの翻訳開始領域にリクルートされたHfqが翻訳阻害に直接関与しているのかは不明である。この点を検討するために、試験管内翻訳系を用いてSgrS/HfqによるptsG mRNAのサイレンシングの再構成を目指した。その結果、SgrSあるいはHfqを単独で加えた場合ptsG mRNAの翻訳に殆ど影響が無かったのに対し、HfqとiSgrSを共に加えた場合にptsG mRNAの翻訳が効果的に阻害された。また、細胞内においてptsGmRNAの抑制が出来ない点変異SgrSを使用した場合には、翻訳の阻害は起こらなかった。従って、SgrS/HfqによるptsG mRNA翻訳阻害の試験管内再構成に成功した。次に、Hfq非存在下でptsG mRNAとSgrSを高温処理し、RNA間塩基対を形成させた場合にも強い翻訳阻害が観察された。このことは、一度塩基対形成が起こってしまえば翻訳の阻害にはHfqは不要であることを示している。即ち、塩基対形成そのものがptsG mRNAの翻訳阻害の直接の要因であると結論した。
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