研究課題
原腸形成は、受精卵が分裂を始めてしばらくすると起こる細胞運動で、細胞が胚の中にもぐり込むダイナミックな形態変化を伴う。この原腸形成によって三胚葉(内胚葉、中胚葉、外胚葉)がそれぞれの位置に配置される。その間、同じ胚葉同士の細胞は仲間である同種の細胞と離れないように集団として動くこと、他の細胞集団と混ざり合わない「組織分離」を保つことが必要であることが知られていた。しかし、その分子メカニズムについて手がかりはあったものの、詳細は不明であった。本研究で発見されたANR5は細胞増殖因子FGFによって活性化される遺伝子を網羅的に探索した結果得られた遺伝子(Genes to Cells,2004,9,749-761,Dev. Biol.,2005,282,95-110)のひとつで、魚類から両生類、ヒトを含む哺乳類まで保存された遺伝子である。その遺伝子産物の合成をモルフォリノアンチセンスオリゴヌクレオチドで阻害すると、胚の体長が短くなる、神経管が閉じない(神経管閉鎖不全)などの異常が起こった。細胞レベルでその原因を調べたところ、原腸形成に関わる中胚様の細胞が通常持っている細胞突起が形成されないこと、細胞同士の接着が弱まることなどが明らかになった。その分子メカニズムを調べた結果、ANR5は本来カドヘリンファミリーに属するPAPCという膜タンパク質の細胞内領域に直接結合すること、また、PAPCの細胞内シグナルによって調節されるRhoと呼ばれるタンパク質の活性を担っており、その異常によって、細胞突起形成、細胞接着が著しく阻害されることが明らかになった。その結果、組織間の分離が阻害され、組織の協調した運動とともに、個々の組織のアイデンティティが失われ組織分離が確立しないことが、発生異常の原因であることが明らかになったCurrent Biologyに印刷中。原腸形成はヒトを含めた生物のかたちづくりの基本的なステップであり、その異常は新生児の約3000人に1人の割合でみられる二分脊椎症などの先天異常と深く関連していると考えられている。本研究によって原腸形成を制御する新しい遺伝子が発見されたことは、二分脊椎症などの病因解明に直接つながるものと期待される。
すべて 2006
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