研究概要 |
糖尿病など高血糖によるタンパク質と糖のグリケーション反応が従来から研究されてきたが、我々は全く新しい概念である「脂質のグリケーション」が食品の中や生体膜で起きることを世界ではじめて証明した。脂質グリケーショシは食品の変性や細胞機能の障害に密接に関与すると推定されたので、本研究では、食品と生体における脂質グリケーション、脂質過酸化、細胞機能障害の相互関係を解明するとともに、脂質グリケーションを阻害できる食品成分を明らかにすることを目的とし、下記の研究を行った。 (1)脂質のグリケーションによる食品の品質・栄養価・機能性の変化の解析 脂質と糖に富む加工食品は、その製造工程で脂質グリケーションが進みその産物が生成蓄積する可能性がある。そこで、先に我々が開発したAmadori-PEを定量できるUVラベル化剤によるHPLC-UV法を用いて、種々の加工食品の糖化脂質(アマドリ型の糖化リン脂質,Amadori-PE)の存在量を調べた。その結果、粉ミルク、マヨネーズ、チョコレートなどに糖化脂質が多く生成蓄積しており、これら食品の褐変や劣化に関与する可能性が明らかとなった。 (2)高血糖における生体膜脂質グリケーション産物の検出定量と精密化学構造解析 リニアイオントラップ型ハイブリッド質量分析装置によるAmadori-PEの選択的な検出方法を利用し、糖尿病患者の血漿脂質からAmadori-PEの分析に成功した。さらに、Amadori-PEは健常者の血漿には少なく、腎臓病を併発した糖尿病患者に多いことを認めた。血漿のAmadori-PE濃度が高いと、過酸化脂質濃度も高値となった。よって、Amadori-PEは高血糖状態で生じ、膜脂質過酸化と細胞障害を惹起して、糖尿病の増悪化につながる可能性が示唆された。 (3)生体内グリケーションの新指標としてのアマドリ型糖化脂質分析の有効性の検証と簡易免疫定量法の開発 上記(2)の結果を受けて、Amadori-PEの高血糖障害指標(糖尿病指標)としての臨床活用に向けて、簡便かつ選択性の高いAmadori-PEの免疫定量法の開発に着手した。 (4)脂質グリケーション産物による血管新生誘発などの細胞障害性とその作用の分子機構の解明 糖尿病性網膜症の原因とされる血管新生がAmadori-PEによって引き起こされることを培養細胞試験で証明し、現在、この血管新生促進メカニズムの機構を遺伝子レベルで解析している。 (5)糖尿病予防に向けた脂質グリケーションを抑制できる食品成分の同定と効能評価 脂質グリケーションが効率よく進行するin vitro反応系を新たに構築し、ここに種々の食品素材・成分を加え、脂質グリケーションの阻害活性を評価した。その結果、活性の高いものが数種認められ、例えば、ビタミンB6群のピリドキサールリン酸(PLP)は、Amadori-PEの蓄積を効果的に阻害することがわかった。さらに、ストレプトゾトシン誘発糖尿病ラットの血漿におけるアマドリ-PEの異常蓄積を、PLPの摂取により効果的に抑制できることを見出した。以上より、PLPなど食品成分の脂質グリケーション阻害という新機能が明らかになりつつある。 このように、本研究は計画通りに順調に推移している。
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