研究課題/領域番号 |
17208015
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松本 雄二 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 助教授 (30183619)
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研究分担者 |
横山 朝哉 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 助手 (10359573)
竹村 彰夫 東京大学, 大学院農学生命科学研究科, 助教授 (50183455)
今井 貴規 名古屋大学, 大学院・生命農学研究科, 助教授 (20252281)
山本 浩之 名古屋大学, 大学院・生命農学研究科, 助教授 (50210555)
吉田 正人 名古屋大学, 大学院・生命農学研究科, 助手 (30242845)
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キーワード | リグニン / バイオマス / 近接場 / アテ材 / 立体異性体 / 木化 / 顕微赤外分光 |
研究概要 |
リグニンが樹木細胞壁に力学的強度を与えるためには、その化学構造がどのようになっている必要があるか、と言う点を明らかにするために、表記タイトルの研究を行っている。4ヵ年のうち初年度にあたる今年度は次の四点について集中的に取り組み、それぞれについて極めて重要な基礎的知見を得ることができた。 1)樹木に特別の力学的負荷がかかるために生成するアテ材のリグニン構造 2)木質化していない細胞と木質化した細胞におけるリグニン化学構造の差異 3)力学的な破壊場においた時のリグニン化学構造の変化 4)細胞壁内におけるリグニン構造の差異を分析するための近接場赤外分光光度計の適用 このうち1)については、明確なアテ材の形成が見られる広葉樹および針葉樹(ともに熱帯産樹木)を用い、力学的な負荷が連続的に変化する年輪上の各部位から試料を調製し、リグニン化学構造の変化を調べた。その結果広葉樹においては、最も高い引張り強度下にあると考えられる引張アテの部位から、その反対側にかけて、リグニン中の主要構造であるarylglycerol-β-aryl ether結合(β-0-4構造)の立体異性体比(eryhto/threo比)が低い値から高い値へと連続的に変化することが確認できた。この変化は、リグニンの芳香核構造のsyrinngyl/guaiacyl比の変化と極めてよく相関していた。一方、針葉樹においては、最も高い圧縮強度下にあると考えられる圧縮アテの部位から、その反対側にかけて、β-0-4構造の立体異性体比(eryhto/threo比)が高い値から低い値へと連続的に変化した。この変化は微小なものであったが、極めて明瞭に観測され、その変化は芳香核構造の一つであるp-hydorxyphenyl核の含有率と極めてよく相関していた。このように、異なった力学的環境へのリグニンの対応として、β-0-4構造の立体異性体比の変化が重要な役割を果たしているのではないかと考えられた。 2)については、草本から木本までを含む幅広い試料を分析した結果、硬い組織を作る時とやわらかい組織を作るときでは、細胞壁におけるβ-0-4構造の存在量が明瞭に異なっていることを示すことができた。3)については、樹木の細胞壁を力学的に破壊すると、β-0-4構造の二つの立体異性体のうち、erythro体が優先的に破壊されることが示された。4)については、近接場赤外分光光度計を植物細胞壁の分析に適用するのは世界で最初の試みであり、その可能性を装置の開発者である日本分光とともに充分に検討し、1ミクロンレベルの空間分解能で赤外スペクトルが得られることを明らかにした。
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