研究課題
基盤研究(A)
イヌ肥満細胞腫臨床サンプルに関し、c-kit遺伝子の全領域について遺伝子変異の検索を行い、細胞膜直下領域の遺伝子変異が12%程度の症例に認められたものの、その他88%の症例におけるc-kit遺伝子は、野生型であることを示した。また、変異型c-kit遺伝子を用いて遺伝子導入実験を実施したが、腫瘍性増殖が誘導されなかった。このことから、c-kit遺伝子の変異が腫瘍性増殖の根幹ではなく、それ以外の細胞内分子にも何らかの異常が併発することで腫瘍性増殖が誘導されていることが示唆された。肥満細胞腫細胞ではD型サイクリンの過乗発現、Bcl-2ファミリー分子Mcl-1の過剰発現、Bcl-2抑制性BH3ファミリータンパクの低発現、p21・p27・p53などのガン抑制遺伝子の低発現が認められた。また、転写因子NF-κBやAP-1が活性化しており、これらの分子標的阻害剤によって細胞周期の進行が阻止され、細胞の増殖が抑制されることが明らかとなった。その活性化を誘導する上流の細胞内シグナル分子として、PI3キナーゼ系の下流でS6キナーゼが強く活性化しており、転写を制御するS6リボソーマルプロテインの発現が亢進していることが明らかとなった。さらに、c-kit遺伝子に変異を有さず、高親和性IgEレセプターを発現する新しいイヌ肥満細胞腫株を樹立し、その成果を論文発表した。c-kit遺伝子変異以外の腫瘍化あるいは腫瘍性増殖促進メカニズムを検索する目的で、症例サンプルや数種のイヌ肥満細胞株を用いて、各種サイトカインおよびそのレセプターの発現とグレード(悪性度)との関連を検討した。肥満細胞種の多くが、IL-3や-6、GM-CSF、SCFなどの増殖因子を自ら産生し、それらのレセプターも発現していること、それらを中和することで細胞増殖が抑制されることを明らかにした。
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