H.pyloriが産生する空胞化致死毒素(VacA)によるシグナル伝達系p38 MAPKと、p38 MAPKによる転写因子ATF-2の活性化が、炎症反応に関わるプロスタグランジンを産生する誘導型シクロオキシゲナーゼ-2の発現を如何に誘導するかについて究明した。これまでの遺伝子レベルでの解析結果から、COX-2 mRNAはVacAの処理時間及び処理濃度に依存して増加した。このVacAによるCOX-2 mRNAの増加は、p38の特異的阻害剤による処理、若しくは、dominant-negative p38 (DN-p38)強制発現により顕著に抑制された。次に、VacAによるCOX-2の転写活性に及ぼす影響について、COX-2プロモーターを繋いだルシフェラーゼ遺伝子(COX-2 reporter遺伝子)を用いて詳細に調べた。その結果、COX-2 reporter遺伝子-327/+59の細胞内導入で認められるルシフェラーゼ転写活性のVacAによる亢進が、COX-2プロモーターのATF-2結合配列(CRE配列)を変異させると著しく低下した。従って、VacA処理により、p38経路を介して活性化したATF-2がCOX-2 promoter領域のCRE配列に結合して転写が亢進し、COX-2の発現が誘導されることが分かった。さらに、細胞培養上清中に産生されるPGE_2の産生量が、VacAの処理時間に依存して増大し、COX-2特異的阻害剤及びDN-p38発現の強制発現により著明に抑制された。 以上の成績から、H.pylori VacAがp38/ATF-2経路の活性化を介してCOX-2の発現を誘導し、その結果、PGE_2の産生が亢進することが明らかになった。VacAにより炎症性メディエーター及び細胞増殖誘導因子としての多様な機能をもつPGE_2の産生が増加することが、本菌感染症にどのように関わっているのかを知る新たな課題が生じた。
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