ヒト型SLAM(CD150)ノックインマウスとI型インターフェロン(IFN)受容体欠損マウスを交配させたマウスに麻疹ウイルス野生株を感染させると、感染5日後をピークに脾臓T細胞の割合および絶対数の低下が認められた。B細胞数にはほとんど影響がなかった。また、感染マウスでは脾臓T細胞の増殖反応や遅延型過敏反応も減弱した。このように、本マウスはヒトの麻疹で認められる免疫抑制を非常に良く再現できる優れた動物モデルである。T細胞減少の原因を明らかにするために、全身の免疫臓器におけるT細胞、B細胞の絶対数を測定したが、脾臓以外で大きな変化は認められなかった。また、免疫細胞におけるアポトーシスの亢進は認められなかった。したがって、脾臓T細胞の減少は、ウイルス感染によるリンパ球の分布変化やアポトーシスでは説明できないことがわかった。感染マウスの脾臓CD4陽性T細胞のIFN-ガンマ、TGF-ベータ産生には大きな変化はなかったが、IL-4、IL-10産生が上昇していた。制御性T細胞数の増加は認められなかった。したがって、本マウスで観察される免疫抑制にはIL-10のような抑制性サイトカインが関与していることが考えられた。本マウスに麻疹ウイルス野生株とワクチン株を感染させると、野生株のみが増殖することができる。すなわち、本マウスはウイルスのビルレンスを調べるためのモデルとしても有用である。野生株とワクチン株の組換えウイルスを作製し、感染実験を行ったところ、ワクチン株のRNAポリメラーゼをコードしている遺伝子(P遺伝子およびL遺伝子)を持つ組換えウイルスは、培養細胞でもマウスモデルにおいても増殖が著しく減弱することがわかった。したがって、ワクチン株は宿主細胞内でのRNA合成が減弱することが弱毒化の大きな要因であることが明らかになった。
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