研究課題
球脊髄性筋萎縮症(SBMA)はアンドロゲン受容体の遺伝子変異を原因とする運動ニューロン疾患である。我々は、本疾患の病態が男性ホルモンに依存しており、アンドロゲン低下療法が本疾患の治療となりうることをマウスモデルなどを用いて明らかにし、さらにその臨床応用を推し進めている。しかし、SBMAをはじめとする神経変性疾患では、症状の進行が極めて緩徐であるため、死亡や車椅子使用など臨床的イベントをエンドポイントとする臨床試験による薬効評価は困難である。そこで、代用エンドポイントとなるべきバイオマーカーの探索を行った。その結果、SBMA患者の陰嚢皮膚では変異アンドロゲン受容体の核内集積が高率に観察され、その程度は脊髄における集積の程度を反映していることが明らかとなった。さらに生検組織を用いた解析では、陰嚢皮膚における抗ポリグルタミン抗体陽性率と患者の臨床所見との間に相関がみとめられた。以上から、陰嚢皮膚における変異アンドロゲン受容体の核内集積はSBMAの病態を強く反映する優れたバイオマーカーであると考えられる。また、SBMAの初期病態における分子メカニズムおよびその可逆性についても検討した。SBMAモデルマウスではニューロフィラメントが運動ニューロン遠位軸索に蓄積しており、同様の集積は患者肋間筋でも観察された。その原因として逆行性軸索輸送が障害されていることが、逆行性ラベリングなどにより明らかとなった。次に、軸索輸送を担うモーター蛋白質の発現量を定量したところ、SBMAマウスの脊髄運動ニューロンおよび前根ではdynactin1蛋白質の発現量が発症前から有意に減少しており、そのmRNAレベルも発症前から減少していた。以上から、ポリグルタミン鎖の延長した変異アンドロゲン受容体の核内集積によるdynactin1の転写障害が逆行性軸索輸送障害の原因であると考えられた。
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