研究概要 |
1.造血幹細胞における分化と自己複製のエピジェネティックな制御 DNAのメチル化は分化に必須のエピジェネティックな修飾の一つである。DNAメチル化酵素であるDnmt3a、Dnmt3bは細胞の分化制御に重要な役割りを果たすと考えられている。造血系におけるDNAメチル化酵素の役割りを解明することを目的として、造血幹細胞が高度に濃縮されているCD34-Kit+Sca+Lin-細胞においてDnmt3a,Dnmt3b単独あるいは両方をCre遺伝子の導入によりコンディショナルにノックアウトし、造血幹細胞の分化と自己複製に与える影響を解析した。その結果、3a、3b両方をノックアウトしてもin vitroのコロニー形成には影響が無く、DNAメチル化酵素が血液系細胞の分化に関与していないことが示唆された。ところが単独のノックアウトでは有意な差は認められないものの、両方の遺伝子をノックアウトした造血幹細胞は致死量放射線照射したマウスの骨髄を再構築することができなかった。以上の結果はDNAメチル化酵素が造血幹細胞の分化ではなく自己複製に重要な役割りを果たしていることを強く示唆するものである。DNAメチル化酵素の造血幹細胞の非対称性分裂への関与を個々の造血幹細胞におけるタンパクレベルの発現で解析を試みたが、今のところ有意に非対称な発現は認められていない。 2.組織幹細胞の共通の制御機構の解明 幹細胞に共通な分子機構としてWnt、βカテニンの系を考え、胎仔肝臓中での血液系ならびに肝臓系細胞におけるWnt、Frizzledファミリー分子の発現ならびにTCF/βcateninの役割について検討した。これまでに報告されている19のWnt ligandと10のFzdについてFACSで濃縮したhepatoblastならびに造血系の細胞における発現をPCRで解析したところ、Wnt2,Wnt3,Wnt5a,Wnt7bは肝と血液細胞で共通に発現されていた。Wnt11,Wnt5bはhepatoblastのみ、Wnt9aは血液細胞のみで発現していた。Wnt-TCF/LEFシグナル伝達系の肝発生における役割りを明確にするためdominant-negative formのTcf-4(dn-Tcf4)をレトロウイルスでhepatoblastに導入したところコントロールと比して有意にTATやTOなどの成熟肝細胞マーカー遺伝子の発現が押さえられ、さらにはコロニー形成も抑制された。これらのデータからTCF/LEFの転写活性が肝細胞の分化と増殖を制御する役割りを果たしていることが示唆された。
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