悪性グリオーマ、特にグリオブラストーマの予後は診断・治療技術の向上にもかかわらず依然として改善せず、その原因は腫瘍細胞の増殖能と強い浸潤能、そして治療への抵抗性にあると考えられる。本研究は、グリオーマの強い浸潤能と治療抵抗性を制御する責任分子とそのシグナル経路を解明し、分子メカニズムに基づく治療戦略をデザインすることを目的として行った。2年目の主な成果を以下に示す。 【1】昨年までの研究により、がん細胞をDNA損傷性薬剤や微小管作動性薬剤などの抗癌剤で処理した場合、分裂期崩壊(mitotic catastropheと呼ぶ)というメカニズムで細胞が死滅することを見出し、この崩壊死は細胞分裂期における細胞内での酸化ストレスの上昇に依存していることを見出した。本年度は、分裂期での長時間の停止がなぜ酸化ストレスを上昇させるのか、更には酸化ストレスの上昇が最終的にどのような分子経路を経て細胞を死に至らしめるのかについて解析を行った。その結果、細胞は一般に分裂期にはミトコンドリアの膜電位が上昇し活性酸素が上昇することを見出し、活性酸素量は分裂期停止時間の長さに依存することが分かった。また、酸化ストレスの下流でp38MAPキナーゼが活性化して細胞死を誘導することが分かった。更にU251MGグリオーマ細胞ではp38経路の活性化が障害されていることが分かり、この細胞の抗癌治療に対する抵抗性を説明することが出来る。 【2】昨年までの研究で、ピアルロン酸細胞外マトリクスと細胞接着分子CD44の接着と解除の回転(turnover)がグリオーマ細胞の浸潤能を規定する重要な要素であることを見出したが、本年の研究でピアルロン酸合成酵素(HASと呼ぶ)、とくにHAS3と呼ばれる酵素活性が細胞の先進部の活性に重要な役割を果たしていることを見出し、その発現阻害によって細胞の浸潤を極めて効果的に抑制することに成功した。
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