研究概要 |
以前に確立したPorphyromonas gingivalis培養液をペリスタポンプにて灌流し,Modified Robbins device内の装着したヒドロキシアパタイトディスク上にバイオフィルムを形成する実験系を改良し,P.gingivalis培養液中に,緑膿菌のオートインデューサー(アシルホモセリンラクトン)の類似物質のライブラリーより選択した13種類の化合物を各々混入し,P.gingivalisのクオラムセンシングすなわちバイオフィルム形成に及ぼす影響を吸光度ならびに微細形態により検索した。C_<12>H_<31>N_2O_2およびC_<16>H_<32>N_2Oは緑膿菌と同様にP.gingivalisのクオラムセンシングにおいてアンタゴニスト様に作用した。他の6種の化合物(C_<10>H_<20>N_2O,C_<10>H_<20>N_2O_2,C_8H_<16>N_2O,C_<16>H_<32>N_2O,C_<17>H_<26>N_2O_3,C_8H_<13>NO_3)は,P.gingivalisバイオフィルム形成にはアゴニスト用に作用したが、C_8H_<16>N_2Oは緑膿菌では抗菌活性を示した。残り5種の化合物(C_<11>H_<21>NO,C_<17>H_<34>N_2O,C_<16>H_<29>N_2O_2,C_<17>H_<26>N_2O_3,C_8H_<13>NO_3)は,P.gingivalisのバイオフィルム形成に影響を及ぼさなかった。供試したホモセリンラクトン類似物質のうち8化合物はP.gingivalisバイオフィルムの形成に関与しており,2種類はバイオフィルム抑制効果を示した。この抑制効果を示した化合物が複数菌種バイオフィルムの形成を阻害すれば,歯肉縁下あるいは根尖孔外バイオフィルムの形成阻害剤の開発へ繋がると予想される。 一方,ヒトの病巣局所で観察されるバイオフィルムを可及的にin vitroで再現するため,根尖性歯周炎の難治化に関与している14試料より根尖孔外バイオフィルム中の細菌種を,16S rRNA遺伝子解析法により同定し,検出頻度の高い細菌種の局在性を免疫組織学的に検索した。その結果,1,207クローンから113細菌種が同定された。Fusobacterium nucleatum (14/14), P.gingivalis (12/14), Tannerella forsythensis (8/14)などの歯周病原性細菌種が高頻度で検出されたほか,培養不可能で未同定の細菌種も14試料中11試料から検出された。P.gingivlisおよびP.ncleatumは根尖孔外バイオフィルム中では散在性に観察されたが,T.forsythensisはバイオフィルム表層に局在していた。現在これらの結果をもとに,複数菌種バイオフィルムモデルの作製を行っている。
|