従来、口腔癌の治療法は主に視診、触診、画像診断による進行病期と病理組織診断により決定されてきた。しかしながら、同一臓器に生じる同一組織型の癌であっても、症例によって悪性度、治療に対する効果および予後は多様であり、それは癌細胞内の遺伝子異常の程度に起因していると考えられる。したがって、個々に生じる癌の遺伝子異常を正確に把握することは極めて重要であり、より適切な治療を行うための科学的根拠になり得る。そこで、本研究では口腔癌の診断に分子遺伝子学的診断を加えることを目指した。口腔癌組織(100症例)を用いたヒト全遺伝子を解析対象としたマイクロアレイにて、口腔癌の分子遺伝子学的診断に有用なマーカー分子すなわち、1)血液RNAあるいは血清を用いた癌細胞存在診断マーカー、2)センチネルリンパ節あるいは原発生検組織の一部を用いた頸部リンパ節転移診断マーカー、3)原発生検組織の一部を用いた放射線および抗 癌薬感受性診断マーカーを同定することに成功した(特願2005-182322、特願2007-203371)。今後、これらマーカーを用いた簡易、迅速、安価な分子遺伝子学的検査法を開発し、二次予防の徹底、進行病期の正確な把握(特に正確な頸部リンパ節転移診断)、適切な治療法の選択を試み、口腔癌治療成績の飛躍的な向上を目指す。さらに、口腔癌治療に有用な標的分子を見出すために培養ヒト口腔扁平上皮癌細胞10株を用いたマイクロアレイ解析により、共通して発現亢進の認められる癌関連遺伝子を484種類同定した。
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