研究概要 |
モバイルコンピューティング環境の発展により,移動透過性,すなわちコンピュータなどの接続機器(ノード)がそれまでと異なるネットワーク配下に移動しても通信を継続する機能が要求されている.現在の標準的ネットワークプロトコルであるTCP/IPはこの機能を持たない.本研究では期間内に,広帯域通信に適した移動透過性を実現する新たな方式を提案し,ノード単体の移動のみならず,複数ノードが接続したネットワーク全体が移動する「移動ネットワーク」にも適用可能な方式を提案し,プロトタイプの試作および実証実験を通して提案方式の性能を定量的に評価した. 平成18年度は,平成17年度の基本プロトコル開発および評価結果を受けて,通信性能の詳細な計測および性能向上のための改良,無線接続拠点からのアドレス情報等の取得・配布方式の改良,移動情報管理サーバとの間の制御プロトコルの改良,高速端末認証方式の提案などを行った.特に,移動情報管理サーバの制御プロトコル改良においては,複数の管理サーバを任意の(ネットワーク上の)場所に設置することを可能とするものであり,広域ネットワークを経由して設置した複数の管理サーバにより,提案した制御プロトコルが良好に動作することを実証実験として示すことに成功した. プロトタイプシステムによる提案手法の評価および動画像伝送実験については,平成17年度に構築した高精細動画像(HDVフォーマット,約30Mbps)を伝送した状態でのネットワーク切り替え(ハンドオーバ)実験システムを,関係学会・シンポジウム等の場で公開し,多くの研究者ならびに技術者にその性能を確認してもらうことができた.さらに,無線LAN機能を持つPDA端末に本提案方式を実装し,複数の無線LANアクセスポイント間をハンドオーバするプロトタイプシステムも構築した.無線PDA端末についても,動画像(MPEG4フォーマット,約1Mbps)を伝送した状態でハンドオーバを行う公開実験を複数回実施した.公開実験においても,広域ネットワークを経由した複数の管理サーバが利用可能であることを確認しており,いずれかの管理サーバへのネットワーク到達性が失われた場合においても問題なくハンドオーバ動作が可能であることを示すことができた. 以上のとおり,本研究はほぼ当初の計画どおり進行し,研究成果をあげることができた.なお,平成18年度までの研究成果は,Linux OS上で動作する本提案方式のプログラムとともにWebサーバ上で独自に公開している.
|