研究概要 |
(1)高齢者の加齢特性を考慮した高齢者模擬歩行モデルを構築し,シミュレーションに基づき,加齢に伴う歩行の不安定化の生体力学的要因の分析を行った.これにより,神経伝達特性に代表される運動の巧緻性低下に原因の一つがあると推察された.また,このようなシミュレーション研究の有用性についても議論ができた. (2)歩行運動モデルについて,歩行運動の力学的な外乱に対する安定性を大幅に向上させることができた.これは運動の記憶学習に関連するメカニズムを主成分分析とベクトル場への引き込み現象として表したものである.これにより,力学的な外乱に対する適応能力を従来の10倍程度向上させることが可能となった. (3)感覚系のモデルとして手の力感覚特性モデルを実験より同定した.実験ではロボットマニピュレータのインピーダンス特性を様々に変化させ,それに伴う手の運動データと感覚の知覚特性との関係を調べた.その結果,位置・力伝達特性のゲインによってヒトの力感覚特性をよく表現できることが明らかになった. (4)より汎用的,統合的なモデルの構築を目指し,汎用的運動を実現可能な全身筋骨格モデルの構築を試みた.ここでは特に力学的な環境のインタラクションを忠実に再現できることを念頭に置いた.そのためには環境との接触は単に反力を知覚するだけでなく,インピーダンスのような環境の力学特性自体を知覚することが重要性であることが明らかになった.ただし,具体的なモデルの構築までには至ることができず,この点に関しては今後の課題として残った. (5)運動機器と身体モデルとの統合システムの例として,自転車エルゴメータに各種運動計測センサを装着し,それと筋骨格モデルとを連動させる運動評価システムの構築を行った.これは組み込み型デジタルヒューマンとも呼べる新しいシステムへ発展する可能性を秘めている.
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