研究概要 |
人間は他者の心の状態を,その人物の微妙な動作からでも推定できる.これは,人は他者についての心のモデルを持ち,他者の動作をそのモデルに基づいて解釈し,さらに自己の行動を決定することができるためだと考えられる.今年度は,その過程の計算論的な理解について,基礎研究と応用研究の両面から研究を進めた. (1)脳認知過程の確率的な計算モデル化:行動決定を確率過程として計算し,各瞬間の他者の起こし得る行動を計算的に予測することで,実際には観測できない内部での行動決定プロセスを推定する方式を計算論的に表現することができた. (2)対戦型カードゲームにおける他者の行動決定の計算過程をエントロピーに基づいて推定する方式を開発し,個々のプレイヤーの行動からその過程を動的に推定することを試みた.その結果,個々人の各瞬間における行動決定過程の特徴づけをすることができ,一見して同じ行動過程ではあっても被験者の注目する情報が異なる場合にはその識別と推定が可能となった. (3)自動車運転モデルでは,これまでの道路形状からのステアリングと視覚入力駆動の外界観察では不十分であることが判明した.そこで新たに外界の事物の認識によるアクティブな推論と観察実行過程のモデルを開発し,ドライビングシミュレーション時の人間の視線運動を予測モデルによって予測し,実際の視線をアイカメラで計測して各瞬間の尤度を計算することで検証した.その結果,運転者はその行動決定の直前にそのモデルに沿った行動を行なうことが示唆された.
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