研究概要 |
酸化還元酵素が触媒する反応は、電子移動反応(Electron transfer)、水素化物イオン移動反応(Hydride transfer)、酸素化反応(Oxygenation)等に大別できる。平成17年度は、酸化還元酵素の大部分を占める水素化物イオン移動反応の触媒機構について、文献情報や蛋白質立体構造等のデータベースに基づき、系統的な解析を行った。水素化物イオン移動反応を触媒する酵素では、基質と酵素側でのプロトンの移動を伴うことが多い。また、水素化物イオン移動反応により酸化される基質はCH-XH(-XH:-OH,-CH,-NH)などが含まれる。水素化物イオン移動反応では、反応機構について、次のように分類できた: (A)プロトン移動と共役しない反応; (1)触媒残基共有結合型、 (2)電荷リレー型、 (3)プロトンポンプ型、 (B)プロトン移動と共役した反応; (1)酸塩基触媒型、 (2)プロトン・リレー型 多くの反応では、基質と補酵素間のエネルギー差だけでなく、プロトン移動による配向の変化が重要であることが示唆された。プロトン移動に共役した反応では酸塩基の役割をするチロシン、ヒスチジン、リジン、グルタミン酸、アスパラギン酸、システインなどプロトン・リレーの役割をする触媒残基、または亜鉛などの金属イオン(ルイス酸)が酵素に共通して存在することが判明した。他方で、プロトン移動と共役しない反応では、共有結合に関与する残基、電荷リレーの働きをする残基、またはプロトン・ポンプのような構造変化により酵素反応が触媒されることが判明した。 量子化学手法との融合のために、(1)立体構造データをフラグメント分子軌道法プログラム(FMO)の入力データへ変換し、(2)FMO計算出力データから任意の情報を抽出し、(3)得られた情報を統合し、複数の蛋白質間の活性部位での電子状態を網羅的に比較・解析するシステムを開発した。
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