思考、推論、判断意思決定などの高次脳機能の遂行には、多様なモダリティーの情報や同一モダリティーの質的に異なる情報を用いた処理が必要である。限られた神経資源を用いてこのような情報処理を素早くかつ柔軟に行うためには、同一神経回路網における多重情報表現が不可欠である。本研究では、マルチモーダルな情報処理による思考や意志決定に深く関わる前頭連合野背外側部ニューロン群の活動を指標に、同一神経回路網上でモダリティーの異なる情報がどのように表現され、処理に供されるのかを解析しようと試みた。空間性・非空間性情報のワーキングメモリをそれぞれ必要とする3課題を用いて検討した。ODR課題では手がかり刺激の提示された位置の情報を、C-DMS課題では手がかり刺激の色の情報を記憶しなければならない。一方、COND課題では、手がかり刺激の色情報をもとに眼球運動方向を決定しなければならない。これら3種類の課題に関連するニューロン活動を解析した結果、前頭連合野背外側部においては、空間情報(刺激の提示位置や眼球運動方向)、非空間情報(色)を表現するニューロンの分布にトポグラフィーは観察されず、両者の分布には重複が見出されたものの、分布の重心位置には違いが見出された。また、視覚情報を表現するニューロンでは、視覚刺激の提示位置の違いや色の違いに応じてその空間分布に違いが見出され、また、眼球運動情報を表現するニューロンでも、運動方向の違いに応じてその空間分布に違いが見出された。このように、さまざまな情報は発火するニューロン集団の空間的な分布の違いにより表現されていること、異なる情報間でこの分布に大きな重なりのあることが明らかになっている。
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