近年、さまざまなモデル動物を用いた新しい睡眠研究が発展しているが、特にショウジョウバエが注目され急速に進行している。われわれは睡眠が極端に減少したショウジョウバエのfumin変異を発見して解析を続けている。まず変異の原因遺伝子をクローニングしたところ、哺乳類でもコカインなどの覚醒物資の標的となるドパミントランスポーターであったことから、ショウジョウバエの覚醒制御機構には哺乳類との類似性があり、モノアミン系が関与していると考えられた。次に脳の遺伝子発現を網羅的に解析したところ、ドパミン系に関与する遺伝子群には変異株と野生型で発現量の変化はなく、逆にグルタミン酸系に関与する一群の遺伝子群に発現量の変化が認められた。これは、従来知られていなかったドパミン系とグルタミン酸系のクロストークの可能性が示唆した。変異株の寿命を調べたところ、通常の飼育条件では野生型と差はないが、高栄養の食餌を与えると、活動量が老化とともに上昇し寿命が短縮した。さらにカフェインを与えると、野生型よりも大きく活動量が増えて睡眠時間が短縮して、寿命も短くなった。通常の条件では寿命に差がないことから、これらの二つの結果は、ショウジョウバエの睡眠には一定の必要量が存在し、それよりも睡眠が短くなると、寿命にも影響するが、最低限の量が確保されれば、寿命には影響しないことを示唆した。今後、睡眠と寿命、さらには高栄養の三つの関係についての研究を深めることで、これらの生理学的な意義についての示唆が得られると考えられる。
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