研究課題
短時間の記憶獲得、その後の練習による記憶固定、こうした短期記憶から半永久的に残る長期記憶にいたる転換過程の分子メカニズムは未だ明確でない。これまでの我々はニューロプシン(KLK8)がNMDA受容体の活性化後数分というきわめて短時間で蛋白分解活性が数百倍に上昇し、これによって海馬プレシナプスに存在する細胞接着分子L1camを限定分解することを見いだした。そのKO動物では最初期LTPが消失し、その行動試験においても記憶の獲得に関与することが明らかとなった。本研究では予定される3年間で接着分子のectodomain sheddingとマトリクス蛋白による神経可塑性のシグナル調節メカニズムにいかなる分子群が関わるかを明らかとする。具体的には(1)ニューロプシンから接着分子L1のectodomain sheddingに至る経路の探索、(2)活性型ニューロプシン添加によって起こるE-LTPからL-LTPへの変換に関係する受容体、チャネル、シグナル分子群の探索および(3)tPAのLTPへの関与がニューロプシン単独でおこるLTPと同じシグナル系を介するか、について検討する。これまで課題(1)についてはニューロプシンの活性化プロテアーゼの同定を目的として解析してきたが未だ特定するまでには到っていない。一方、ニューロプシンによってsheddingされる分子フィブロネクチン、L1camを特定し、さらに現在もう1種のタンパク質P120の同定を行っている。課題(2)については、刺激入力の強度に応答してニューロプシンが最初期に活性化され、その活性化の度合いによってL-LTPを誘導すると考えられ、LTPの安定化に重要と考えられるシナプス間隙タンパク質のshedding、シナプス強化、インテグリン活性化、Voltage-dependent L-type Ca channel (VDCC)の活性化という1連の機序が明らかとなった。さらにニューロプシンKOマウスの詳細な解析から、ニューロプシンがL1cam陽性の未熟型シナプス、PSDが観察されないオルファンブートンの成熟に関わることを示した。課題(3)については19年度に解析する予定である。
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