研究概要 |
スフィンゴリピドーシスは、スフィンゴ糖脂質のライソゾームにおける分解異常を病因とする疾患群で、その多くは重篤な神経病変をきたす。我々は、その疾患モデルマウスを作成し、脳の発達、維持、病態におけるスフィンゴ糖脂質の機能解析を行っている。スフィンゴ脂質活性化たんぱく質(サポシンA, B, C, D)は共通の前駆体であるプロサポシンから誘導される相同性の糖たんぱく質で,多くの疎水性スフィンゴ糖脂質のライソゾームにおける分解に必須である。最近我々は、サポシンDノックアウトマウス(Sap・DKO)を作成し、その小脳と腎臓にはHFA-セラミドが蓄積し、小脳プルキンエ細胞死による運動失調と腎尿細管変性による多尿を呈することを明らかにした。本研究ではSap-DKOにおける小脳プルキンエ細胞死の分子メカニズムの解析を行った。小脳プルキンエ細胞死は日齢120頃より左右対称のゼブラ状に領域特異的に進行し、そのパターンはセラミドの分解産物であるスフィンゴシンをスフィンゴシン-1-リン酸(SIP)に代謝する酵素であるスフィンゴシン・キナーゼ(SPHKI)の発現パターンと相関していることが抗SPHK1抗体を用いた免疫組織化学的検討で明らかになった。すなわち、Sap-DKOにおいてはSPHKIを発現していないプルキンエ細胞群がより早期に細胞死に至り、SPHK1を発現しているプルキンエ細胞群は病末期まで生存していた。同様の所見はNiemann・Pick病C型マウスモデルマウスの小脳においても見出された。一方、初代培養プルキンエ細胞を用いた検討でSPHK1はプルキンエ細胞樹状突起の棘突起部分に局在していることが明らかになった。これらの研究成果から、セラミド、スフィンゴシン、SIPは細胞死やCa代謝などに加え、小脳プルキンエ細胞における神経伝達においても重要な役割を果たしていることが示唆された。
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