本年度は下記の実験を行い、成果を得た。 1.麻酔下の幼若ラットから脳幹を摘出し、孤束核を含む冠状切断スライスを作成し、パッチクランプ法で孤束核ニューロンの膜電流を記録した。記録細胞に蛍光色素を導入し、細胞周囲に(N-CNB)-caged L-glutamic acid (10mM)を満たし、laserを当ててglutamateによって活性化される内向き電流を測定し、照射位置の樹状突起からの距離およびlaser強度、再現性・反復性などを検討し、最適の条件を得た。 2.同上の脳スライス標本において、孤束核ニューロンから興奮性シナプス後電流を記録した。NPE-caged ATP(10mM)を記録細胞近傍に短時間微小圧投与し、細胞外濃度を平衡化した。そこでlaserを光束径3μmにして記録ニューロンの樹状突起に照射してuncageしたところ、200-1000ms以内という極めて短時間の潜時で最大瞬間頻度約60events/sという著しいEPSC頻度の増加が観察された。この増加は、新たにNPE-caged ATP溶液を細胞周囲に満たすことによってほぼ同じ強さで再現され、PPADS(40μM)で完全に遮断された。NPE-caged ATP非存在下のlaser照射はこのような応答を誘発しなかった。 以上より、本研究で実証しようとする重要な仮説の一つである「シナプス前P2X受容体活性化による局所的Ca^<2+>流入によるグルタミン酸放出が単一〜数個のシナプスサイトで生じうる」事実が証明された。この事実は、来年以降実証する近接グリア細胞からの限局されたATP放出によってグルタミン酸放出が促進されうる可能性を裏付ける重要な基礎知見である。
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