研究概要 |
シナプス前プリン受容体がシナプス近傍のアストロサイトから放出されるATPによって活性化される可能性を検討した。 1.テトロドトキシン潅流下、脳幹スライス孤束核小型ニューロンから微小興奮性シナプス後電流(mEPSC)を記録し、α,β-methyleneATPによって著明なmEPSC頻度増加が観察されるニューロンにおいて、アストロサイトに豊富に発現しているP2Y_1受容体、ならびにPAR-1受容体の作動薬(それぞれ2-methylthioADP(2mSADP)ならびにthrombinおよびTFLLR-NH_2ペプチド)の効果を観察したところ、2mSADP投与例の55%ならびにPAR1受容体作用薬投与例の数例において著明なmEPSC頻度の上昇が観察された。α,β-methyleneATPの促進作用は、P2X受容体遮断薬trinitrophenyl ATP(TNP-ATP,10μM)によってほぼ完全に抑制されたが、グリア細胞特異的にTCAサイクルを抑制する「グリア毒」flnuoroacetate5mMによっては影響されなかった。一方、2meSADPの作用は、TNP-ATPおよびflnuoroacetateの存在下には観察されなかった。 2.グルタミン酸放出促進は、(1)P2×3サブユニット含有型チャネルの選択的阻害薬で消失する、(2)不活性化しない、ならびに(3)P2×4サブユニット欠損マウスでは生じない、などの実験事実より、孤束一次求心線維からの放出である可能性が示唆された。 以上より、アストロサイト・ネットワークの活性化がアストロサイト突起からのATP放出とそれによるシナプス前P2X受容体の活性化を介した自発的グルタミン酸放出を直接誘発してニューロンの活動なしにシナプス伝達を促進する可能性が示された。
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