新規化合物に対する安全性試験に、クローズドコロニーのラットが汎用される。しかし、クローズドコロニーの遺伝モニタリングは容易でなく、集団の一部で毒性が観察された場合であっても、遺伝解析が適用困難である。そこで、新たな安全性試験のためのツールとして、当施設で維持している日本産野生ドブネズミ由来の近交系ラットNIG-III等を用いた交雑群の有用性を検討することにした。既存ラット系統から遺伝的に離れているNIG-IIIを用いるため、遺伝的多様性が供給されるし、交雑群を採用するため、前もって多型性を示すマイクロサテライトマーカーを用意しておけば、遺伝モニタリングの実施は容易であり、家系分析が可能となるため副作用感受性遺伝子の同定も可能となる。既存のクローズドコロニーとNIG-IIIを用いた交雑群を併用することにより、より確実な毒性評価、副作用感受性遺伝子の同定の実現が期待される。 本研究においては、4つの近交系(BN、F344、NIG-III、SHR)に対してPCRを行い、オートシークエンサーを用いた電気泳動を行ったところ、多型性を示すマイクロサテライトマーカーが得られた。続いて、出生時体重をモデルとして遺伝解析を実施した。すなわち、4つの近交系(BN、F344、NIG-III、SHR)から実際に4元交雑の新生仔を作出するとともに、体重を測定した。さらに、常染色体上の32のマイクロサテライトマーカーを用いてそれぞれの遺伝子型を決定し、1系統の対立遺伝子とその他の対立遺伝子のフォーマットで4つのデータセットでQTL解析を実施した。しかし、今回採用したQTL解析では有意な遺伝子座が検出されなかった。これは、遺伝的多様性はもつものの、組換えを生ずる世代は1世代しか経ていないこと、また、遺伝子型についてはホモ化を含め、多様な遺伝子型がそろっていなかったことに起因する可能性が考えられた。
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