研究概要 |
新たな系統保存法としてのマウス卵巣の凍結保存技術の開発・改良を進め、実用化に向けた実験システムの構築を目的として、凍結保存に供するドナー卵巣の条件、凍結・融解の条件、凍結保存卵巣からの受精卵の作成、ならびにレシピエントメスへの移植条件などを検討した。 1.マウス卵巣の凍結保存条件の検討:凍結。融解後の移植によってもっとも高率に産仔を得ることができる卵巣の条件を知るために、いくつかの日齢の卵巣を凍結保存後にレシピエントメスに移植し、産仔の生産効率を検討した。その結果、生後0、10,21,28日齢のいずれの実験群でも凍結保存由来の卵巣から産仔を得ることができた。なお、産仔の生産効率と実験操作の点からみると10日および21日の卵巣による成績が良好な結果であることが示唆された。また、凍結保存の際の卵巣サイズは1ミリ以内で良好な結果が得られた。(藤澤・横山分担) 2.凍結保存卵巣の組織学的な解析:ガラス化法で凍結・融解処置した卵巣組織に及ぼす凍害の影響を組織学的な方法で解析した。その結果、凍結前の保存液への浸漬時間は30分以内ではなんら影響は認められないが、60分を超すと組織周辺部を中心に変性が現れることが知られた。(藤澤分担) 3.凍結保存卵巣からの受精卵の作成:凍結保存した卵巣から未成熟卵子(卵胞内卵子)を採取し、体外培養による体外成熟と体外受精を検討した。生後16,18,22.日齢の各新鮮卵巣1個から約50個の未受精卵子を採取でき、培養によって約半数を成熟卵として得ることができた。凍結保存卵巣からも同等の未成熟卵子を得ることができたが、培養による成熟卵への発生率は低く約10%にとどまった。また、体外受精成績は、新鮮卵巣由来の卵子では約40%であったのに対して、凍結保存卵巣由来では20%以下であった。(佐藤・横山分担) 4.卵巣移植法の確立:卵巣移植では、移植卵巣を提供するドナー系統と、それを受け入れるレシピエント系統との間の組織適合性を考慮する必要がある。我々は、レシピエント系統としてT細胞とB細胞の複合免疫機能が不全であるSCIDマウスの有効性を示した。また、バッククロス途中の遺伝的背景が複雑なTgマウスやKOマウスにおいても応用可能であるごとを明らかにした。(佐藤・横山分担)
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