研究概要 |
本研究では,動脈内の血流と血管壁の弾性変形および血行力学因子に対する血管壁のリモデリングを連立させた計算力学シミュレーションにより,動脈に発症した動脈瘤が拡大進行していく様子を再現し,そのメカニズムを明らかにすることを目的としている。動脈瘤が形成されると血管形状は変化し,それに伴って血流動態が変化するので,血行力学因子も影響を受ける.そこで今年度は,動脈瘤の成長に伴って変化する血流動態を考慮した動脈瘤の成長シミュレーションを試みた.そこではMRI画像から構築した動脈の実形状モデルを用い,壁せん断応力に応じて血管壁を局所的に拡張させたり,弾性特性を変化させるリモデリングモデルを仮定し,それに基づいて得られる動脈瘤の形状を調べた.その結果嚢状の動脈瘤の形成には,これまでに考えてきたように,血管壁のひずみ成長や剛性の低下など血管壁を局所的に拡張させる作用だけでなく,その周囲に併発する動脈硬化による血管壁の剛性の増加も考慮する必要があることがわかった.また,こうした力学的刺激に対する血管壁の力学特性の変化を明らかにするために,細胞膜,細胞骨格および細胞核を考慮した細胞の力学モデルの構築し,細胞の引張や圧縮試験,AFM計測で得られる細胞の力学特性を再現するとともに,組織中に埋め込まれた細胞の変形特性を解析した.これにより,これまでに行ってきた動脈瘤の成長シミュレーションのなかで,力学負荷に応答する細胞および組織レベルの特性を表現することのできる力学モデルの基盤を築いた.
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