リン脂質小胞体に限らず、一般に微粒子懸濁液の体内投与では、静脈官投与を含めその大部分が短時間に臓器(主に肝と脾)に集積する傾向がよく知られている。投与条件と投与法にもよるが、前述と違って個体の骨髄に集積する小胞体を見出した。この集合現象の詳細を解析し、薬物送達の制御に利用することを目的とする。 本年度は、負電荷基を親水部頭部に有する両親媒性化合物を合成し、リン脂質小胞体の二分子膜成分として利用した時の表面ゼータ電位への影響を導入量や分子構造と関連させて明らかにした。特に、強酸基(リン酸基)で表面修飾した小胞体はpHに対するゼータ電位変動が軽微であるが、弱酸基(カルボキシル基)で修飾した場合にはpHにより表面ゼータ電位が大きく変動し、pKa値など負電荷基の物性が小胞体表面に顕著に表示されることが示された。 これら小胞体を放射化標識して、投与後からの体内動態をγカメラやシンチレーションカウンターにより測定した。数種の負電荷成分を比較した結果、骨髄に顕著な指向性を示す負電荷成分を特定した。骨髄への集積性は負電荷小胞体一般に認められるものでなく、特異的な認識機構の関与が示唆された。更に小胞体表面をポリエチレングリコール(PEG)で修飾することにより、肝と脾への取込み抑制が骨髄への集積を向上させる条件まで明らかにした。 また、骨髄組織での小胞体の分布を明らかにするため、二分子膜および内水相を各々蛍光色素で標識した小胞体を投与し、骨髄組織を共焦点顕微鏡で観察した。両蛍光色素の同一分布から小胞体が内包物を伴って骨髄に集積していることが確認され、内包薬物の輸送体として機能することが示された。小胞体の表面物性と体内動態の相関解析を継続すると共に、小胞体利用により薬物送達を制御した効果を明らかにする計画を進行させている。
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