カルボン酸を親水部に有す両親媒性分子をリン脂質小胞体の成分として利用することで、骨髄への顕著な指向性が誘発されることを確認している。この小胞体を利用すれば水溶性および脂溶性化合物を骨髄に効率的に送達できるため、薬物輸送体としての応用を計画している。従来、酸性リン脂質を含有するアニオン性小胞体は補体系を活性化する因子として知られ、小胞体表面の陰性荷電基と補体成分の静電相互作用が補体活性の原因と考えられている。そこで、本年度は酸性リン脂質あるいはカルボン酸型脂質を含有する小胞体の表面電荷特性を詳綱に比較解析し、表面電荷による静電的相互作用と陰性荷電基構造のどちらが生体反応に関与する因子であるか知見を得ることを目的とした。 カルボン酸型脂質を含有する小胞体のゼータ電位(pH7.4)は、酸性リン脂質を含有する小胞体と同等であった。ただし、酸性基のpKaなど分子構造による物理化学的特性は小胞体表面の物性に反映される。カルシウムイオン、カチオン性オリゴマー、カチオン性ポリマーなどとの静電相互作用の比較解析を行ったが、カルボン酸型脂質を含有する小胞体と酸性リン脂質を含有する小胞体の間に相違を認めなかった。一方、実験動物に投与後の補体活性化は酸性リン脂質を含有する小胞体のみで認められた。これらの結果は、小胞体表面での補体活性化反応では陰性荷電よりむしろ分子構造が識別されることを示唆している。カルボン酸型脂質を含有する小胞体の優れた生体適合性も示されたので、安全に投与できる骨髄指向性の薬物輸送体による新しい薬物送達制御システムとして医療への貢献が期待できる。
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