研究概要 |
播磨SPring-8放射光施設を使用し,共同研究者である八木,井上らと共に,L-PGDSと疎水性低分子との結合によるL-PGDSの構造変化について,X線小角散乱法を用いた研究を行った。その結果,L-PGDSは疎水性リガンドであるレチノイン酸(RA),ビリルビン(BR),及びビリベルジン(BV)の結合により,その慣性半径がL-PGDS(19.3Å)からL-PGDS/RA複合体(18.4Å),L-PGDS/BR複合体(17.3Å),及びL-PGDS/BV複合体(17.8Å)となり,L-PGDSは結合するリガンドの大きさによってその構造を変化させる,珍しい蛋白質であることを見出した.一方,L-PGDSと疎水性リガンドとの結合親和性を調べるために,L-PGDS内因性トリプトファン蛍光消光作用の測定を行い,解離定数(K_d)が70-140nMであることを見出し,L-PGDSに対して各リガンドとも,同程度の高い結合親和性を示すことを見出した.以上の結果から,L-PGDSは驚くべき構造的柔軟性を有しており,他の同属分子にはない疎水性リガンドに対する「非選択性」を持つことを見出した.以上の結果は,L-PGDSが非選択的に疎水性リガンドをトラップし,輸送する能力を持つことの証明である.これらの成果は,The 31^<st> FEBS Congress : Molecules In Health & Disease, Istanbul, Turkey(2006年)にて報告し,J.Biol.Chem.に投稿中である.大阪大学大学院薬学研究科高分子化学・大久保忠恭助教授との共同研究により,多次元NMR法を用いてL-PGDSの構造解析を行い,L-PGDSは他の同属分子と同様に,8本のβ-sheetからなるβ-バレル構造を形成し,その中心に疎水性キャビティーを有することを見出した.さらに,キャビティーの入り口が他の同属分子よりも大きく開いており,X線小角散乱の測定より推測された「broad selectivity(非選択性)」を反映していると考えられた.本成果はJ.Biol.Chem.に投稿中である.さらに、本学獣医学専攻の竹内,中嶋との共同研究により,L-PGDSを用いたDDSの有効性を調査するために,抗不安剤であるジアゼパムとL-PGDS複合体を作製し,ペントバルビタール麻酔下のマウス脳室内投与による麻酔時間延長作用を調査した.その結果,L-PGDSの濃度依存的に麻酔時間の延長効果が観測され,L-PGDS/ジアゼパム複合体溶液では,ジアゼパムの溶解性が高まり有効濃度に到達したと考えられた.以上の結果から,L-PGDSは難水溶性薬剤の溶解度を改善することが示され,L-PGDSを用いた本DDSが有効であることを見出し,特許を出願した.(特願2006-283137)
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