ヒトを用いた実際の計測ではなかなか知り得ない、機能、構造の表面筋電図への影響について、シミュレーションにより検討した。 急激な力発揮時には、MVC(最大随意収縮)に比べ、筋電位振幅が発揮力の割に大きくなることがある。また、発揮力がMVCより小さくても、筋線維伝導速度は同程度である。このような現象を、シミュレーションにより運動単位の活動参加、発火頻度、発火タイミングの点から検討した。その結果、急激な力発揮時の活動参加数はMVCより少ないこと、発火タイプとして同期発火あるいは二重発火のグループとランダム発火グループの両タイプに分かれる可能性が示唆された。また、急激な力発揮時における筋線維伝導速度推定に、活動参加数の影響が十分反映されていないかもしれない。 また、逆解析に際して、解に影響を与える構造の条件、すなわち、境界、異方性の影響を明らかにするために有限要素法によるシミュレーションを行った。真皮と表皮の表面筋電位への影響を検討するために、三層と四層構造をもつ半径40mm、長さ360mmの円筒モデルを用いた。三層モデルは筋、皮下組織および皮膚から成る。四層モデルは筋、皮下組織、真皮および表皮から成る。シミュレーションでは、三層モデルの皮膚の厚さと導電率、四層モデルの真皮の厚さと導電率、および表皮の厚さと導電率を変化させて表面電位を計算した。その結果、三層モデルでは、層の厚さより導電率の方が表面電位への影響が大きかった。四層モデルにおける、表皮の層の厚さ、導電率ともに表面電位への影響は小さかった。そして、四層モデルと三層モデルでは、その表面電位ピーク値に平均で約20%の誤差が生じる可能性が示唆された。これらの知見は、シミュレーションをさらに充実させることにより、加齢による筋機能の変化を、表面筋電図を通して今まで以上に具体的に推定できる可能性があることを示している。
|