研究概要 |
本研究の目的は,セントラルコマンド(中枢指令)による見込み制御が運動時の腹部内臓血流調節に働くがどうかについて検討することである.平成18年度の研究課題は,前年度に検討した「能動運動(セントラルコマンドが有る条件)および受動運動(セントラルコマンドの無い条件)」の運動様式を用いて,腎動脈と上腸間膜動脈の血流動態を測定することである.この実験の背景には,腎動脈血流調節については種々の行動や運動開始時にセントラルコマンドによる腎交感神経活動が亢進するという動物実験の成果とヒトでは亢進しないとする矛盾した報告がされているからであった.また上腸間膜動脈血流については,セントラルコマンドに関する検討がなされていないという現状があった.このような状況を踏まえ,本研究では9名の健康な成人女性を対象として,運動開始期の腎動脈と上腸間膜動脈の血流反応を検討した.実験では,肘屈曲伸展動作による能動運動および受動運動の開始直前・直後にみられる腎動脈(腎組織に流入する約1-2cm前の部位)および上腸間膜動脈(腹大動脈から分岐後約2cmの部位)における平均血流速度と血管径(上腸間膜動脈のみ)を超音波法により計測した.また心電図法により心拍数を計測した.そしてフィメータを用いて平均動脈血圧を計測し,モデルフロー法により1回拍出量および心拍出量を算出した.実験の結果,心拍数あるいは平均動脈血圧には能動運動と受動運動の相違がみられたが,腎動脈と上腸間膜動脈のどちらの実験においても,血流量,平均血流速度,血管径,血管抵抗指標には,能動運動と受動運動における有意な差異がみられなかった.このことより,軽負荷運動の開始時における腎動脈および上腸間膜動脈の血流調節にセントラルコマンドの制御が働かないものと推測された.
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