【目的】近年の脳画像研究では、脳構造が精神疾患にも関与しているとの報告がなされている。動物実験では、成体において、自発的な運動が海馬神経細胞の増殖を促進し、また海馬の細胞増殖が運動による抗うつ効果に関与しているとの報告がなされている。よって、ヒトにおいても、運動が脳構造に影響を与え、精神的健康度の維持・向上に寄与している可能性が考えられる。高齢者では有酸素能力が高い者ほど加齢に伴う脳の変性が少ないことが報告されている。しかし若年者において検討した研究は、我々の知る限り存在しない。そこで本研究では、若年者において、有酸素能力の違いが脳構造とどのような関係にあるか検討するとともに、脳構造と精神的健康度との関係を検討した。【方法】被験者は成人101名(男性80名、女性21名)とした。高解像度のT1強調脳MR画像を撮影し、自記式のアンケートを用いた精神的健康度の測定、推定最大酸素摂取量(VO_2max)の測定を順に行った。撮影した脳MR画像をもとに、voxel-based morphometry (VBM)法を用いて脳の局所灰白質量とVO_2maxの関係を調べた後、さらに精神的健康度との関係を調べた。【結果】有酸素能力と脳局所灰白質量の関係を調べ、眼窩野・島・側島極において正の相関関係、視覚野において負の相関関係がみられた。また、両部位の灰白質量と精神的健康度の関係を調べた結果、主観的幸福感が眼窩野・島・側島極において正の相関関係を示し、視覚野において負の相関関係を示した。【考察】島、側頭極、眼窩野は、いずれも感情に関わる部位として知られており、相互に連絡している。これらの脳領域が、有酸素能力や運動と精神的健康度の関係をつなぐ部位であることを示唆しているのかもしれない。
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