地球温暖化の進む今日、夏期スポーツ時の熱中症等への安全対策を含めて、暑熱環境に対する順化のメカニズムや速やかに順化する方法開発への期待が高まっている。本年度は、暑熱環境下運動時における体温上昇と呼吸循環反応の関係から、暑熱耐性評価のための新しい生理学指標とそれに及ぼす運動トレーニングの影響を検討することを目的とした。気温35度湿度50%の環境制御室内で、50分間の一定負荷(50%VO2max)自転車運動を行い、その時の呼気ガス、心拍数、血圧、皮膚血流量、食道温、皮膚温、前腕血流量変化、運動前後体重変化を測定し、体温上昇度、総発汗量、皮膚血流量、体温上昇に伴う換気亢進割合や前腕血流量上昇割合を解析算出した。また、別の日に、被験者は環境温25度の環境制御室に入り、皮膚温度を調節できるように水循環スーツを着て皮膚温を38度に上昇させるとともに下肢を42度の水に入れて、徐々に深部体温を上昇させた。体温上昇に伴う換気亢進割合や前腕血流量上昇割合を求めて、暑熱耐性の一つの指標として評価した。 これらの実験から、安静時および運動時における、体温上昇に伴う換気亢進割合と体温上昇に対する前腕血流の増加割合との間の関係は、安静時と運動時の両条件において見られることが明らかとなった。また、最大酸素摂取量と安静時及び運動時に得られた換気亢進割合の大きさおよび前腕血流の増加割合との間にも有意な相関関係がみられた。したがって、体温上昇に伴う換気亢進割合は、暑熱耐性を評価する際の新しい生理学的指標となる可能性が示唆される。
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